グレーゾーンな30代独身派遣女子の日常

30代独身派遣女子の日常

元彼に日々振り回されています

出会って2日目、初めてのプロポーズは居酒屋で②

「一緒に飲みに行かないか?」

 

人生で初めて、異性から飲みのお誘い。これはもしかして、恋愛に発展してしまったりするのでは…?ドキドキしながら了承の返事。

 

優しそうな人だったな。

もし付き合ったらランチデートとか…

甘いもの好きかな?動物は?どんどんと膨らむ妄想。昔から、妄想力は人一倍にある。

 

約束の日から一週間後、私は居酒屋の前にいた。真面目な私は、5分前には現地に到着。そこには、既に私を待っている彼がいた。

 

何か大きな紙袋を持っているが、それほど気にはならない。まあ、そんなこともあるだろう。声をかけると、嬉しそうな表情が返ってきた。

 

私の周りは遅刻をする人が多い。この時点で彼への印象は◎だった。

 

スムーズに席へ着き、飲み物を頼む。

 

「会社の飲み会だと、ビールとか苦いお酒も飲むんですが、本当はこういう甘いのが好きなんです」

 

これから長い付き合いになるかもしれない。前回の会社飲みのイメージで、どんどん酒を持ってこられては体がもたない。今のうちに事実を伝えておくべきだろう。

 

「酒が飲める人が良かっただろうか…」一抹の不安。まあ、これで振られるようなら、それまでのこと。傷も浅い。

 

「そうだったのか。自分は本当は、もっと強い酒が好き。今日は甘い好きなの飲みな。俺は、強いの飲もうかな」

 

あら。

 

予想外の反応。確かに前回の日本酒は、後々調べるとアルコール度数が低かった。

 

そうか。飲めない私でも、良いのか。安堵と、本当の自分が認められたようで、じんわりと嬉しさが広がる。

 

「あとこれ、プレゼント」

 

先ほどから見えていた大きな紙袋を渡される。中には高そうなチョコと紅茶缶。ちょろい私は、すぐさま心を捕まれた。

 

しばらくして、目の前に運ばれるグラスが2つと、軽くつまめるものの入った小鉢。

 

一口。

こんなに楽しいお酒を飲んだのは、いつぶりだろう。

 

しかしそんな穏やかな雰囲気も束の間。事態は急展開を見せる。

 

「で、君は彼氏いるの?」

 

速い。スピード感が異次元の速さ。でも自分も相手も、もう良い年齢の様子。婚活世代はこんなものなのか?

 

「いえ、まだそういう人はいないです」

 

不自然さは感じつつも、正直に答える。ちょっと速いなとは思ったけれど、まあ結果は同じなのだ。わざわざ回り道する必要もないだろう。

 

「じゃあ結婚しないか?」

 

 

 

……絶句

 

私は恋愛経験が浅い。30年生きてきて、誰かと付き合ったこともない。そんな空気になったこともない。

 

でも分かる。

 

これはちょっとおかしい。都会だからとか、そういう問題じゃない。

 

「いや、まだ私達会って2回目なので…」

 

「何が不満?顔が好みじゃない?結婚したら、もう働かなくても良いよ。もちろん働きたいなら、止めない。好きなところに家を建ててあげる。俺は良い大学を出てるから頭も良いよ。実家が会社経営してるから、お金もある」

 

矢継ぎ早に放たれる好条件。

 

相手が嘘をついているとは疑わない。多分、本当に良い大学を出て、実家も金持ちで、結婚すれば働かず贅沢な暮らしを許してくれるのだろう。

 

ただそんな理想の彼に対して、どんどん心は離れてゆく。

 

もしこれが、もっとゆっくりと、段階を踏んでなら、私は目の前の男性と付き合って、結婚する未来もあったのかもしれない。

 

数分前まで浮かれていた心が、急に冷たくなる。冷めるとは、こういうことを言うのだろうか。

 

こんなに好条件だというのに。ちょっと前まで付き合う未来を描いていたのに。私の心はどうしてこうも天邪鬼なのか。

 

私は誘いを断った。

 

相手はなかなかひかなかった。

でも、私も頑なだった。

 

帰り、明日一緒に熱海に行かないかと誘われた。もう宿は取ってあるとも。

 

熱海は行ったことが無い。良いところだと聞く。憧れもある。でも、心が動かない。また、私は断った。

 

家に着いて、泣いた。

 

怖かった?

 

よく分からない。自分が何で泣いているのか。私は昔から、自分の感情が分からない。不便な性分なのだ。