どこからが浮気?共感出来ないスペクトラムの場合
とある動画で「どこからが浮気か」というテーマで話し合いをしていた。
人と付き合うまでの私は、一緒に食事や手をつなぐ等、特に気にしなかった。体の関係も、お店なら特に問題視しない。全ての局面で、自分が相手を満足させる自信が無かったから、他所で色々な欲を発散させるのは仕方のないことだと考えていた。
ただ、心の浮気は嫌だった。
心が離れてしまったら、それが終わりの時だろうなと、感じていた。
後に彼氏となる人と、付き合う前、同じテーマで話し合ったことがある。
私は例に漏れず、先のようなことを伝えた。
「えー、そんな風に彼女に思われたら、逆に辛いけどな。
他所で発散しちゃっていいの?
自分では無理だから、他所で満足してこいってのは、言われる立場としては辛いなあ。
満足してもらえるように、頑張ってはくれないの?」
「満足はさせられない。
私には、そういうトーク力とか技術力がないから。」
「一緒に勉強はしてくれないの?」
「勉強はします。頑張りもします。ただ、人は得手不得手があります。私は、その分野は無理だと思う。そんな私に付き合わせて、ずっと満足出来ない状態は可哀想。だから、これは優しさです。」
一通りのやり取りの後、彼はうーんと唸っていた。
私の言っていることが、分からないわけでは無い様子。
ただ、男心として腑に落ちないのだろう。
「でも、心が浮気相手の人に行くのは、嫌です。別の人とデートしても良いです。手をつないだっていいです。でも、私といるときに、ああ、またあの子と遊びたいなって、思われるのは嫌です。」
ぼそりと呟いた私に、彼はまた疑問符を浮かべる。
「そんなの、男が本当はどう思ってるかなんて分からないじゃない」
「女の感とか、言うじゃないですか。
きっと、なんとなく分かります」
「自分で他の人と遊んで来いって言っておいて、いざその相手のことを好きになったら、嫌がるの?」
…。
確かに、そういう見方もあるのか。
今度は私が唸る番。
「体と心は別です」
「…なんでそんなに、自分を卑下するの?
好きな人が頑張ってくれてたら、それだけで誰だって嬉しいし満足だよ。頑張って会話を盛り上げようとしてくれてる彼女に対して、トーク力がないとか、そんなこと思わないよ」
貴方はそうなんだろう。
でも私はどうしても、そういう時、申し訳なさが勝ってしまう。
彼と付き合った。
彼は多分、浮気とかしていなかった。
忙しい中、時間を作って会いに来てくれていた。
仕事が忙しい人だった。
一緒にいると、時折疲れた様子を見せる。
欠伸をしている姿を見るたびに、心が痛んだ。
ああ、私という存在が負担になっている。
私なんて彼女という存在がいなければ、彼は本来、家で惰眠を貪れたのだ。
「ねえ、疲れてるんなら…もう帰りましょう」
何度そんな言葉を投げかけただろう。
その度に彼は謝った。言い訳のように、大丈夫、疲れてないと続ける。
「会う回数が多すぎるんですよ。減らしましょう。」
いつも同じやりとり。
嫌がる彼。
理解出来ない私。
どんどん彼の負担になる自分に負い目を感じる。
今思えば、彼は私と会うことが気分転換であり、リフレッシュになっていたんだろう。ただ、当時はそんな目に見えないものを信じることは出来なかった。
ある日、私が泣きながら、もう会うのを減らしましょう。負担になりたくないと伝えた。
暫く無言だった彼は、怒ったように言葉を返す。
「君は俺と会えなくても平気なのか?
そうやって俺に合わせて、本当に暫く会えなくなって、君は寂しくもなんともないのか?」
「だって、仕方ないじゃないですか。私が寂しいかどうかに意味なんてないです。貴方の負荷を増やす理由にはならないです」
「俺は君と会うことを負担だなんて思ってない」
「……言ってることが、分からないです」
「俺は君に会いたい。それじゃ、駄目なのか?」
本心では、駄目だと返したかった。
ただそれで彼を納得させることは出来ないだろう。
会話が通じない。
私は会話することを諦めた。
ごめんなさいと伝えた。
そして来週も会う約束を取り付けられた。
私は誰かといると、その人を駄目にしてしまう。
彼は満足していた。
私に思いが伝わったと思ったんだろう。
そうじゃない。
考え方が嚙み合うことはないと、諦めてしまったんですよ。