出会って2日目、初めてのプロポーズは居酒屋で①
東京に上京して1か月。
接客業からIT業界へと転職を遂げた私は
1か月の研修が終わり
遅い歓迎会を過ごしていた
そこには
同期や研修中にお世話になった講師
急遽の招集に集まった数人の先輩方
会社のお偉いさん
私は昔からおじさん受けが良い
その日も例にもれず
会社の役職持ちに囲まれていた
遠巻きに見ている同僚達
そこにはおじさん達に囲まれる私への
羨望や羨ましさは感じられない。
ただただ、こっちに来るなという圧を感じる
今までお世話になっていたはずの講師勢は
頑なに目を合わせようとしない
そんな状況に置かれている私だが
あまり辛さや居心地の悪さは感じない
昔からこうだからだ
何も感じない
ただ、求められる役割を演じるだけ
謙虚で素直
にこにこ笑顔で
適度に女性らしさと恥じらいを
そして時には大胆に。
パターンは決まっている
それに沿って会話をなぞるだけ
そう。
辛くなんてない。
ただ私は根が陰キャなものでして。
こういうのは元来、得意でも好きでもない
だからいつも
鈍い感情を
より鈍らせるために
一気に酒を煽る
飲み会の開始5分で1缶空けるなんて朝飯前
30分もあれば3缶程空ける
後は、勧められるがままに目の前の獲物を喰らい尽くす
おじさん達は言う。
「良い飲みっぷりだね。
最近の子はお酒を飲まない人が多いのに、珍しいね!」
嬉しそうな赤ら顔。
そりゃあ、こんな飲み方してたら、体がもたないですからね。最近の若い子は常識があるんですよ。あんたらと違って…
心の中で、ぶつぶつと悪態をつく。
表情はあくまでも笑顔をキープで!
そんな時、一人の若めの男性が日本酒を1瓶引っ提げてきた。
まじか…
私、日本酒は苦手なんだよな。
でも私の中で断るという選択肢は持ち合わせていない。
それにしても、この空間に1人立ち向かってくるとは、なかなかに気骨のある青年である。
妙な関心。
自分は一体、誰目線なのか。
「これ、凄く甘くて飲みやすいよ。
飲んでみてごらん。」
どこで用意したのか、グラスが2つ。
なんだ、ここにはそんなものがあったのか。
恐る恐る、グラスに口をつける私。
強すぎる酒も飲み込む自信はある。
ただ…苦手さが顔に出るかもしれない。咽るかもしれない。
そうなったら、どう胡麻化そうか。
冷静な頭の中で、フル回転で試行が駆け巡る。
しかしそんな想像とは裏腹に
飲み込んだ酒は酷く美味かった
世の中には
こんなに甘い日本酒があるのかと感動
そこからはその青年と意気投合し
共に帰路へ向かうこととなる
lineを交換し
駅で綺麗にサヨナラ
家に帰って携帯を見てみると
「今度一緒に飲みにいかないか」
とメッセージが入っていた。