販売員が過集中の特性を仕事に取り入れた時
社会人になってから気付いた特技がある。
私は、他人のコピーが得意だ。
私はもともと引っ込み思案で、あがり症、人と話すのも得意ではなかった。それもあり学生時代は専ら"聞き専"の人生を送ってきた。
しかしひょんなことから、私は接客業界に就職することとなる。
ノルマはそれほど厳しい会社ではなかった。一応月目標は存在するが、達成出来なかったからといって、叱咤激励されたり、給料に変化があったりということもない。そういう意味では自由なものだった。
ただ、出世を目指す社員にとっては、そういうわけにもいかない。
私の周りには、喋りに特化した人、懐に入るのが得意な人、視覚的な演出が得意な人等、様々な社員がいた。
特に販売スタイルというものがなかった私は、とりあえず、そういった身近な人達の販売手法を真似るようになる。
販売スキル
喋りに特化するためには、知識をつけなければいけない。販売に必要となる情報を丸暗記して販売に挑んだ。
懐に入るためには、相手の性格や物事に対する判断基準を把握して、良い販売員を演じなければならない。私は、お客様の会話、視線、動きに目を配り、対象者のデータを増やしてゆく。
そんな毎日を続けていると、店でのノルマとされる数字を簡単に達成出来るようになった。
ある日、本社から、営業成績トップだった人間が視察に来るという話が出る。
(視察時点では、販売員から出世を果たし、経営層にまでに登りつめていた)
内心緊張。
ああ、上手く接客できるだろうか。
不安で仕方なかった。
しかし実際にお客様が来ると、率先して接客に向かう本社の営業成績トップ。
トントン拍子に話は進んでゆき、商品が1つ売れてしまった。
今の時代には、無い販売スタイルだった。
トークが長けているとか、観察眼が凄いとか、そういうレベルではない。彼は接客に必要とされる技術を網羅し、場を掌握していた。
彼のようになりたい、という風に思ったわけではない。
ただ、私は影響を受けやすい。思考が勝手に「彼だったらこう行動する」「彼だったらこう話す」と、どんどん自身の販売スタイルを塗り替えてゆく。
私は確固とした自分というものがないのだ。
現場把握スキル
とある上長の中に、数字に強い人がいた。
その人は、店舗ごと、社員ごとのノルマ達成率から、店がどういう状況なのか、社員がどういう心理状態なのかを読めるというスキルを持っていた。
昔から数字が苦手な私は、数字というだけで毛嫌いしていた。
しかし、どうやら彼の話を聞いていると、難しい計算をしているという風でもない。ただ、様々な数字を先月、前年と比較する等して、数字を点としてではなく線として捉える。そこに個々の性格や会社の雰囲気を掛け合わせ、正確に物事を把握するということに長けているようだった。
なるほど。
直接相手を目の前にしなくとも、得られる情報は膨大にあるのだ。
私は、彼の能力をコピーする。
自分と配属店の状況だけではなく、会社全体の動きを読んでゆく。
知らないからこそ、幸せに仕事が出来るということもあるというのに。
私は好奇心に勝てない。